フジコレイヤー2
 なんでこんなことになったのか……
「はぁ」
 俺はひとり自室でため息をつく。
 つい先ほどまで不二と乾がこの部屋にいたのだ。そして半ば無理矢理俺は彼らの手伝いをさせられる羽目になったわけだ。地球の平和のため、と言えば聞こえはいい。だが、しかし。
 不二がサカキタロストと戦うための変身エナジー、ドキドキエネルギーのチャージを手伝う約束をさせられたのだ。ドキドキさせると言うのは、つまり……
「手塚も勉強してね
 不二の声が頭の中でリフレインする。熱が上がりそうだ。
「勉強、勉強か」
 そうだな。少し勉強しておいたほうがいいかもな。性的興奮がつまりドキドキダイナモには必要なのだとあのロボット=乾が言っていた。しかし不二はどうやら手を握ったりとかではあまりドキドキしないらしい。そして「勉強してね」不二の甘い声を頭の中から振り払うのに少々時間を要した。



「おはよう、手塚」
「ああ、おはよう、不二」
「昨日言い忘れたんだが……」
 突然背後から声がして、正直驚いた。こんなにでかい図体をしてどうやったら気配を消して忍び寄れるのか。
「な、なんだ? 乾」
「明日から、学校も休みになりますね」
「まぁ、そうだな」
「ドキドキエネルギーのチャージですが、できれば朝晩、毎日お願いします」
「……」
 毎日、朝晩だと?
「若いから、大丈夫ですよね」
「とてもそうは見えないけどね」
 あ、聞こえちゃった? と不二は可愛らしく舌を出してみせる。
「とりあえず、今朝の分は学校でなんとかしてみてください」
「努力する」
 ムスッとした声になってしまったのは仕方がないだろう。
「では、いってらっしゃい」
「行って来ます」
 不二は可愛く微笑んで手を振るとこちらを振り返った。
「じゃあ、はい」
 不二が右手を差し出してくる。そっと握ると、あたたかい気分になった。
「でも、学校でチャージしてこいなんて、乾も無茶言うよね」
 明るい声で不二が笑う。薄い色の髪の毛が光を反射して天使の輪っかができる。
「そんなことはないぞ」
「え?」
「普段生活の場にしているところでの性行為は興奮を誘うものらしいゾ」
 不二の目が見開かれる。
「手塚……」
「なんだ?」
「手塚が、そんなこと言うなんて……」
 きっと昨日の俺の言動からして、ということだろうな。
「少し勉強した」
「勉強……したんだ……」
「ああ」
 不二の見開かれた目が、またいつものように微笑みの形に戻る。なんだか遠い目をしているような気がしなくもないが……
「とりあえず、HRが終わったら、生徒会室に来い」
「生徒会室?」
「ああ、鍵は開けておく」
「……」
 コクンと小さく肯くと、不二はそれ以上はなにも聞かなかった。



 HRが終わると、あらかじめ鍵を開けておいた生徒会室に行く。不二が教室を出たのを確認してしばらくしてから俺も教室を出た。あたりを見渡して、誰もいないことを確認してからドアを開く。
 中にはもちろん、不二が一人で待っている。ホッとした表情をしているのは、誰か知らない人が入ってきたらどうしようとでも思っていたのだろう。
 終業式も間もなく始まろうという今頃こんなところに来る者は誰もいないだろうが、一応鍵は閉めておく。
 生徒会室には立派なモノではないが一応ソファセットのような物も置いてある。不二はその手前に所在なげに立っている。セーラー服のスカートは、フジコレイヤーに変身したときのように決して短すぎるというほどではない。
「時間がない、さっそく始めよう」
 不二をソファに誘う。腰は腕を回すと折れそうに細い。腰を抱いたまま並んで座る。
 不二は力を抜いて俺の肩に身体を預けてきている。もうすでに俺の心臓はバクバク言っているのだが、今はそんなことを言っている場合ではない。
 まずは、不二を両手で抱き寄せて口づける。唇が重なるとその柔らかさに気が遠くなる。
「は、ぁ」
 不二の口から甘い声が漏れて、唇が軽く開いた。これは、つまり誘っていると言うことだな! 思い切って舌を突き出してみた。まず口唇を軽く舐める。それから歯列をなぞるようにしていると、不二の舌がそっと差し出された。舌と舌で挨拶を交わすようなやりとりの後、不二の舌を軽く吸い上げる。
 そのころには頭の芯がカーッとなって、本能のままに身体が動いていた。不二の腰を抱いていた左手はセーラーの裾から脇腹のあたりを彷徨っていたし、右手は胸のふくらみに押し当てられていた。
「ん……ふ」
「いい、か?」
 セーラーのファスナーに手をかけたところで、確認を取る。昨日あんな約束をさせられたとは言え、本当に俺でいいのか、不二の気持ちはどうなのかは聞いていなかった。
「ん……」
 少し羞恥に染まった頬で不二が小さく肯いた。
 それが地球を救うために自らの身を捧げる献身なのか、それとも手塚にならばいいという肯定なのかは、手塚には判断がつきかねたけれど。
 それでも手塚の左手はゆっくりとセーラー服のファスナーをあげていく。リボンは不二が自分で外した。
 頭からバンザイをさせるようにして脱がせると、薄い透けるような生地のタンクトップのような物(それはキャミソールというんだ、と不二に教えられた)に包まれたブラジャーが目に入る。薄い生地を押し上げているふくらみは柔らかくて真っ白で。素肌まで透けて見える薄い下着を前にどう扱っていいものか戸惑っていると。
「向こう、むいてて」
 震えるような声で、不二が言ってキャミソールの裾に両手をかけた。
「あ、ああ」
 慌てて後ろを向くと、シュル、と柔らかい気配が動いて、俺の心臓がドキンと音を立てた。
 トン。
「手塚……」
 背中に当たる感触。やはり、乾の言ったとおり俺の方がよほどドキドキしているんじゃないだろうか、と少しだけ不安になる。
 チラリと手塚は壁に掛かった時計を見上げる。本当に時間がない。まさか生徒会長の自分が終業式に遅刻するわけにもいくまい。10分と少々、か。この部屋に入ってからすでに5分あまりが過ぎているわけで、そんな時間で「できる」わけがないので策を弄することにさせてもらう。
 正面から抱き合って、ブラジャーのホックを少し苦労して外す。下から持ち上げるようにすると、手の中で確かな弾力でもって押し返してくる。左右から寄せてきて、両方一度に舌を往復させる。指先で捏ねると先端が堅く尖ってくる。
 トサッ。
 不二の身体をソファに凭れさせると、上気した顔を両手で覆ってしまう。でも、胸のふくらみも、少し乱れたスカートの裾からチラリと覗く下着も丸見えだ。
「恥ずかしい、よ」
「こんなになってるからか?」
 太腿の裏に手を添えて、片足をソファの上に上げてしまうと、大きく開かされた形になってスカートの奥の置くまで覗いてしまう。
「下着が濡れているのが丸見えだぞ」
 言って、一気に下着に手をかけて勢いのままパンティを足から引き抜いてしまう。
「あっ」
 慌ててソファから足を降ろしたけれど、その時にはもう手塚が脚の間に身体を入れていて、どう足掻いても両足が揃えられない。
 ソ……手塚は少し震える指先で、今は明るい窓の下で隠すものもなくはっきりと濡れていると判る其処に触れる。
「やっ」
 ツツ。上から下へ、しずくが指を濡らしていく。ユルユルと何度か往復しているとトロリと新たな蜜が零れてくる。
 チュッ。音を立てて、吸い付いてしまったのは本能か。舌をのばすと唾液と愛液が混ざり合って淫猥な音を立てる。
 もう、そろそろか……手塚はチラリと時計に目を走らせると、もう一度きつく吸い上げた。
「服を着ろ」
 はぁはぁと、荒い息をついている不二を見下ろして、手塚は冷酷に告げる。
「え?」
「早くしないと式に遅刻してしまう」
「あ、ああ、うん」
 明らかに戸惑いの表情を浮かべている不二に、手塚は手にしていたものを見せる。
「これは、戴いておく」
「え、だって……」
 不二の顔は狼狽へと変わっていく。なんとならば、手塚が持っているのは不二が先ほど脱いだばかりのブラジャーとパンティなのだ。
「制服を着ればわかりはしないだろう」
「そ、それは、そう……かも知れないけど」
 不二の顔は見るのも恥ずかしいくらいに真っ赤に染まっている。
「大丈夫だ。もっとも、恥ずかしい匂いでもしているのならバレてしまうかもな」
「なっ」
 不二がなにか反論しかけるが、手塚がそれをさえぎる。
「ホラ、早くしないと遅れるぞ。それとも不二は最後までやって欲しかったのか?」
「そ、それは……」
 言いながらも不二もさすがに時間がないと思ったのか、とりあえず手塚の手から下着を取り返すことを諦めてその他のものを身につけ始める。
「きちんとできたら……そうだな、夜、乾をまいて家に来たらもっと色々やってやろう」
 それには不二は答えなかったけれど、それでも真っ赤になったまま、俯いてしまったので手塚の作戦が成功したことが判る。不二に見えないように、小さくため息をつく。これも『勉強』の成果だ。



 ピンポン。
「手塚……」
 不二が人目を気にするかのようにキョロキョロとしながら、出てきた手塚に明らかにホッとした顔を見せる。
「乾は?」
「……散歩に行った。サカキタロストの偵察も兼ねてるから、当分帰ってこないと思う、よ?」
 身長差があるから上目づかいに見上げる感じになる。少し目が潤んでいるのは気のせいではないだろう。
「着替えたんだな?」
「あ、うん……制服のままだと、却って怪しいから」
 手塚は、もじもじとする不二をみて心臓がバクバク言い出すのを自覚する。こんな時は……
「あ」
 不意に玄関先で抱き寄せられて、不二はバランスを崩してしまう。手塚の胸に飛び込む形になるわけで。
 抱き留めた手塚の手が不二の腰に回る。ツツ、とミニスカートの裾を持ち上げるに至って、不二はその胸を押し返して離れようとする。
「なんだか、手塚が手塚じゃないみたいだ」
「そうだな」
 あっさりと認める手塚に不二も初めて顔を上げる。
「色々と勉強したからな」
「……そう言えば、朝もそんなことを」
 言っていたよね、と遠い目をしながら、手塚のイタズラしようとする手から逃げる。
「とりあえず、部屋に入れてくれるかな? この格好、けっこう恥ずかしいんだ」
「そうなのか?」
 似合っているのに、と真顔で返されて不二は再度頬を染める。着ている服が恥ずかしいわけではない。つまり、手塚に朝学校で下着を取られたまま、家で着替えた際にも新しい下着を着用しようと思えばできたはずなのに、それをしてこなかったのだ。つまり、だから、恥ずかしいんである。
 なんでかって言ったら、自分でもよくわからないんだけど。と不二は心の中でいいわけしてみる。つまり、よく判らないけど、朝のあの偽物っぽい手塚にちょっとときめいてしまったのだ。だから、今手塚の部屋に通されて、ふたりで向かい合っているだけで実は少しドキドキしはじめている。
 手塚は黙って不二を抱き寄せる。玄関先でしたように、スカートをたくし上げる。
「なんだ、もう濡れているのか?」
 耳元で囁かれて膝が砕けた。



「……」
「……」
 だるい。ポツリとベッドの上に座った不二が小さく呟く。
 ワタワタと、手塚はシーツで不二をくるんで、その上から抱きしめる。
「その……」
 初めてで、色々といっぱいいっぱいで、頭の中が真っ白になって……
「わ、悪かった」
 本当はもっといたわって、不二をドキドキさせて気持ちよくさせてやりたかっただけなのに。なんだか、なんというか。
「……夢中になって、加減できなかった」
「プッ」
 抱きしめてくれた人の顔は見ることができなかったけれど、不二には手塚の表情が手に取るようにわかった。少し、困ったような、戸惑いと照れと、それから拗ねてでもいるかのような。
「不二?」
「ふふ、いいよ。手塚が気持ちよくなってくれたら、ボクもうれしい」
 こうして、抱き留められていると、とても落ち着いてしまうんだけど。今日はサカキタロストも現れなかったし、毎日がこうだといいんだけど、なんて。
「ドキドキエネルギーは満タンのようだね」
 ガタン。
「い、乾……ど、どこから」
 2階にあるはずの窓から、いきなり長身の男が現れたら誰だって驚く。
「まあ、細かいことは気にしないでくれたまえ。散歩の途中で、公園の地下にサカキタロストの基地を発見した」
「……細かいこと?」
「っていうか、公園の地下〜?」
 なんて安直な、とは俺も思ったが、口には一応出さずにおいた。
「明日の朝、奇襲をかけるから、そのつもりで。手塚……今夜は不二と同衾を許すよ」
「な、なにを勝手なことを」
 無事筆降ろしも出来たようじゃないか、と乾が耳元に囁いて素早く後じさる。
「朝、バイオボディの強化をしてから、エネルギーチャージをしたら出かけるから寝坊しないでくれよ」
 言うが早いか窓から飛び出した乾を呆然と見送ってしまう。
「……」
「……」
 クスッ。笑い出した不二に、俺もつられた。ふたりしてしばらく笑い合って。



 地球征服を狙うサカキタロスト。決戦の日はいよいよ明日
 がんばれ、ボクラのフジコレイヤー (&手塚、笑)
フジコレイヤー2です。
この時は「偽物な手塚」に嵌っていました(笑) つまり格好良かったり強引だったり巧かったりする手塚です(笑) なんで偽物かっていうと、ふだん私が書く手塚はどうもダメだからです。フジコレイヤーも1の時はどうしようもないくらいダメでおかしかった手塚ですが、まじめに「勉強」したせいかがでて無事偽物に昇格(?)できたようです(笑)