フジコレイヤー3 |
まだ夜も明けきっていない早朝に目が覚めた。布団を抜け出して体を軽く動かすと、気持ちが高ぶってくるのが判る。 「決戦、か」 乾が昨晩言っていたことを思い出す。バイオボディの強化とドキドキエネルギーのチャージ。それからサカキタロストの秘密基地に乗り込んで一気につぶす、というのが計画らしい。どうせなら、どう一気につぶすのかの細かい計画を聞きたいところだ。 カチャ 予定の時間ぴったりに不二の家のドアノブを回す。チャイムは押さない。夜明け後間もない時間で、町内はまだ寝静まっている。 「おそくなった」 研究室に入るとすでに身支度を整えた不二と乾が部屋一面を埋め尽くしたカプセルやコード類、パネルなどの機械の中で顔を上げた。不二はまだ変身していなくて、春の色の柔らかなワンピースを着ている。 「おはよう ![]() 「おはよう、手塚。これから強化するんだが、一応手塚の意見も聞いておこうと思ってね」 乾の眼鏡がキラリと光る。 「ボクはね、反応速度は限界まであげておく方がいいと思うんだけど」 不二が乾をチラリと見てからこちらを振り返って見上げてくる。 「防御が高くないと一気にやられる可能性も否定できないよ」 「そうかな? それより攻撃力が……」 なおも言い募ろうとする不二を片手で制して。 「そんなわけで埒があかないんだ。手塚の意見も聞かせてもらいたいんだが?」 反応速度が鈍いとこちらの攻撃がことごとくかわされてしまうだろうし、防御力が低ければ攻撃を受けたとたんにやられてしまう。攻撃力が低ければ向こうの攻撃を何度もくらうことになってしまうわけだ。それに全体のHPも低いままだと一気にやられるだろう。 強化に使えるエネルギーが限られている以上、バランスをどこに置くかが問題なわけか。 「実際に戦う不二の意見はどうなんだ?」 「だから、反応速度と攻撃力はマックスまであった方が絶対いいと思うんだ。防御力はもちろん低すぎても困るけどそこそこでいい。HPはそれほど高くなくてもかまわないと思う」 「だがHPも防御力も低い、では相手の攻撃力が強い場合に対処できないんじゃないか?」 「それは……」 乾と不二の話を聞きながらオレは今までのフジコレイヤーの戦いを思い出していた。 「不二の戦法からみて、反応速度と攻撃力はたしかに高めておいた方がいいな。ただ今回は本拠地に乗り込む、つまり将軍クラスがでてくるということを考えた場合防御力、HPもむやみに低いままでは無理だ」 「……そ、うだね」 「やはり、その方向で行くか」 乾は独り言のように呟くと、壁にとりつけられた強化用のカプセルの設定に取りかかる。 「エネルギーは充分だな。不二」 「うん」 コクンと頷くと、不二の体がパアッと光に包まれる。ワンピースの薄い生地がフワリと舞い上がり、次の瞬間にはいつものフジコレイヤーに変身した不二が立っている。 「フジコレイヤー、ただいま見参!」 ポーズを決めた不二が少し恥ずかしそうにこちらに来る。 「なんか、敵がいないのに変身するのってヘンな感じ」 不二がカプセルに入ると、中に液体が注入される。息苦しくはないのだろうか? そう言えば、不二の本体の身体の方も似たようなカプセルの中で浮いている。 乾がブツブツと呟きながら、コンソールを叩いている。カプセルの中が光で満たされたと思った瞬間には、強化作業は終わっていた。 「お待たせ、手塚。今の強化でドキドキエネルギーは使い切ってしまったから、チャージを頼むよ。リビドー値は足りているだろう?」 「ああ」 「じゃあ、あまりゆっくりもしていられないけど、ごゆっくり」 不二の部屋でするといいよ、と言い置いて乾は研究室をでていった。 ごゆっくり、と言われても。エネルギーを使い果たして変身のとけた不二と目が合う。 「い、行こう、か」 オレの前に立って歩く不二は小さくて、とてもひとりでサカキタロストの怪人相手に戦っている少女とは思えない。 不二の部屋はいかにも女の子の部屋で、明るい色彩で統一されたかわいらしい小物やぬいぐるみの類が並んでいる。 「不二のにおいがするな」 「ええ?」 あわててクンクンと鼻を鳴らしている不二を両手で抱き寄せる。腰に手を回すと折れそうなほどに細い。 「そういう意味じゃない。不二は、柔らかいにおいがする」 部屋の真ん中に立ったままで少し身をかがめて不二の肩口に顔を伏せる。背中に回した手をファスナーにかけると小さく身じろぎした。 薄い生地が滑り落ちると、下着をつけただけの白い肌が浮かび上がる。明るい陽の下でなおさら白く、伏せたまつげの震えさえ見て取れる。 ブラジャーのホックをはずすと、そっと手で胸を隠してベッドへ向かう。 「不二」 「ん……」 ベッドの上に座っている不二に被さるようにして口づける。深く口づけたまま、最後の一枚に手をかけると、不二は軽く腰を上げて協力してくれる。 長いキスの後、オレは不二の膝に手をかける。 「や……」 イヤ、というわりには抵抗もなく膝が離れていく。最奥まですっかり覗けるだけ押し開くと、そこは光を受けてキラキラと輝いている。 「濡れているのか?」 「あ……そんな、こと」 ない、と言う不二の言葉は、しかし互いにウソだと承知している。 「……いつから濡らしているんだ?」 「……い、乾が……」 「乾が?」 「乾が昨日、あんなこと、言うから……」 あんなこと、というのはつまり、今朝エネルギーチャージをしてから出かける、と言っていたことだろう。 「昨日の夜から期待して濡らしていたのか」 「……ん」 すでに荒くなりはじめている呼吸に大きく胸が上下する。 濡れそぼったそこにそっと指を伸ばすと、不二の全身の筋肉がギュッと緊張する。そっと上下するように掻き回すと震えるような長い吐息が漏れた。 「手塚……」 呼ばれて、見上げると今にも泣きそうな切なそうな表情でこちらを見ている。 「欲しいのか?」 聞くとコクンと小さく頷く。 「まだ早いだろう?」 ぬかるんだ泉にそっと指を差し入れると「そんな……」と小さく抗議したがドキドキエネルギーはとにかく不二をドキドキさせないことには得られない。それこそ自分の心臓の音が聞こえるんじゃないかと思うくらいにドキドキするのを必死で抑えて不二の反応を引き出すことに専念する。 指を一本入れているだけなのにやんわりとした襞に包みこまれると、狭いと思ってしまう。いったいどうやってあの太さのものを受け入れるのだろう。いや、そうだ、赤ん坊もこの路を通って出て来るんじゃなかっただろうか。女体の神秘は奥が深い。 それでも後から後から湧き出てくる蜜のおかげで挿し入れはスムーズで。おそるおそる指をもう一本増やしてみる。まとわりついてくる襞の感触がなんともなまめかしい。指を動かすたびにクチュクチュと湿った音が響く。 「は、ぁん」 甘い声を漏らして、身体に力が入らなくなったのか、不二は上半身を支えていた腕からゆっくりと仰向けにシーツに倒れていく。 誘われるようにして、秘泉に口づける。指は差し入れたまま、その上の方にある小さな真珠のほこらに舌をのばす。ビクンと不二の全身が跳ねて、慌てて口元を抑えている。 指を浅く出し入れしながら蕾を舌で軽く掃くようにそよがせると、堪えきれないすすり泣きが漏れてくる。チュッと音を立てて吸い付くと腰が跳ね上がる。 「どんどん溢れてくるな」 「っん」 髪の毛が白いシーツの上をくねる。 「てづ、かっ」 不二のかすれた声に誘われるように這い上がる。一気に不二の中へと前進した。 「ふぁっ」 十二分に潤った柔肉が蠢くように絡みつく。射精衝動をなんとかやり過ごしてから、ゆっくりと動き始める。いきなり激しく動いたらそれだけで達してしまいそうだ。 不二の膝を抱え上げて目の前の柔らかな膨らみを啄む。ふっと不二の身体が丸くなろうとする。断続的に喘ぎ声が漏れている。 「不二っ」 浅く深く、規則的な律動を繰り返すと一気に背筋を快楽の波が駆け上がってくる。 「あっ、ん、んんーーっ」 「くっ」 きつく締め上げられて最奥に樹液を解き放つ。絡みついてくる襞が最後の一滴まで絞り尽くす。 「不二」 汗で額に張り付いている前髪を払ってやるとうすく目を開いて微笑む。 「ふふ、なんか手塚が優しい ![]() 「……」 「あ、もしかして照れてる?」 ふふふ、と笑う不二から目をそらす。 「そろそろ行かないと時間がないだろう」 「そうだね」 いいながらもクスクス笑いを止めようとしない不二に、ひとつため息をついて、それから決戦のための支度にとりかかった。 中央公園。緑濃い、家族連れなどで賑わうその公園。 「本当にこんなところの地下にサカキタロストの基地があるのか?」 「そのはずだ」 ロボットの乾が言うんだからなにかしらの根拠があるのだろうが、それにしてもごく普通の公園だ。怪人がいるわけでもない。 「このあたりから微量だがエネルギーの放出が見られる」 乾が指さした先には最近の公園らしくこぎれいな公衆トイレ。もし俺がサカキタロストに生まれていたとして、いくらなんでもこんなところから出入りはしたくないな、と眉間にしわを寄せた。 「行ってみよう」 不二に促されてしぶしぶトイレへと足を運ぶ。中もきれいで、一昔前の汚いトイレではないのが救いか。 「あれ、見て」 不二が一番奥の個室を指さす。 「あからさまに怪しいな」 ドアの前にくさりがかけてある。故障中の張り紙もある。故障となっているからには修理に人が来たらどうするのだろう。深く考えると頭痛がしてきそうなのでやめておいた。 「行くよ?」 不二が鎖に手を掛ける。 「その前に変身しておいたほうがいいだろう」 「そうだね」 不二は件のドアの前で胸に手を当てる。変身シーンに人が入ってこないよう建物の入り口で乾が見張りをしている。パァッと不二の身体が光に包まれる。 「青い地球を守るため、胸の鼓動が天を衝く。正義の戦士フジコレイヤー悪の現場にただいま参上」 ポーズをとり終わるとやはり恥ずかしそうに視線を逸らす。怪人がいないところでやるのは恥ずかしい、とブツブツと呟いている。 「さぁ、行こうか」 戻ってきた乾が鎖を引きちぎってドアを開けると、そこには本来あるべき物はなくてかわりに地下へと続く階段が現れた。 「ビンゴ」 乾が黒フチ眼鏡を軽く持ち上げる。 「油断せずに行こう」 階段に踏み込もうとした不二に声を掛ける。 「ここからは敵の本拠地なのだから」 コクンと顎を引くように頷いて、不二が先頭に立って階段を降り始めた。次に俺が続き、乾が後ろからついてきている。 最初は地下をくりぬいただけの土肌も露わなトンネルだったのが、いつの間にか回りは不可思議なパネルやチューブでいっぱいの、いかにも悪役の秘密基地といった様相を呈している。 「見張りもいないなんて、なんだか怪しくない?」 フジコレイヤーがあたりを見回しながら乾に囁いている。 「こちらがこんなに早く本拠地にたどり着くとは思っていなかったんじゃないかな」 乾も身体から緊張が薄れてきている。 「それにしても」 言いかけたときには、フジコレイヤーの身体は壁の中に消えてしまっていた。 「なっ」 壁の向こうからサッと闇色が広がってフジコレイヤーごと消えてしまった。 「不二っ?」 壁を叩いてみてもどこにそんなしかけがあるのか判らない。 「不二が」 乾が後ろからオレの肩を軽く叩く。 「とりあえず、行こう。フジコレイヤーはひとりでも戦える。先を急いで、あとで合流しよう」 乾の言葉に、俺は力強く頷いた。 「うっ」 突然暗闇に飲み込まれて背中でひとつにまとめられた両腕は、きつく戒められているわけではないがいくら力を入れてもふりほどけない。 そんな不条理な状態でフジコレイヤーはその口を犯してくる舌をどうすることもできなかった。 「跡部、いいかげんにしぃや」 「ああん?」 ようやく解放されたフジコレイヤーは跡部の腕の中でぐったりしている。 「あいつら、どうすんねん?」 「ああ、樺地。判ってるな?」 部屋の隅に置物のように静かに控えていた樺地がシュン、という音とともに部屋から消える。 「そこのお嬢さん、お前の慰み者にするために連れてきたんちゃうやろ?」 そんなことを言いながらニヤニヤと笑っていては全然説得力がない、と跡部は心の中だけで苦笑しながら、忍足に説明してやる。 「美しい女性へのキスは礼儀ってもんだろう? ああん?」 言って跡部は再度フジコレイヤーを抱き起こす。 「相変わらず、ええ性格しとんなぁ」 呆れたような声を出す忍足に、それだけじゃないけどな、と付け加える。 「性的興奮をエネルギーに変えてるようだ」 「ええ? それ、やばいんちゃうん?」 首筋に舌を這わせながら、跡部は忍足を視線だけで捕らえてクスクス笑う。 「ちがうだろ? イクかどうかと違って興奮するかしないか、なんだぜ?」 跡部の言うことがよく判らない、という風に首を振る忍足に、言葉を続ける。 「初恋のたどたどしいキスは、興奮するよな? でも慣れてすれてきたらどんなヤラシイことされても興奮はしなくなるだろ? 身体は感じても、な」 「ま、好きにしぃや」 これ以上つきあっていられない、とばかりに忍足もその場を消える。 「行ったか」 忍足のことだ、どうせ樺地の監督にでも行ったのだろう。命令はよく聞くし、戦闘能力も高い。ただ、力の加減を知らないので、誰かがついていた方がいい。忍足はそう言う意味では知将だ。任せて間違いはない。 「そうとなれば」 自分はこちらに専念できると言うことだ。 跡部将軍はもう力も入らないフジコレイヤーの身体を部屋の中心に横たえた。 「エネルギーもあまり残っていないようだな?」 「……なんの目的でっ」 キッと下からフジコレイヤーが跡部を睨み付けると、その頬にそっと手をやる。 「目的? ヘンなことを聞くやつだな。そんなのスカウトのために決まっているだろう」 「スカウト?」 跡部の口から出た言葉にフジコレイヤーは眉をひそめる。なにを言っているのか判らない。 「榊太郎(43)総統のための美少女楽団のスカウト部隊がすることといったら美少女のスカウトしかないだろう?」 「はぁ?」 気の抜けた声になってしまったのは致し方ないかも知れない。「美少女楽団のスカウト部隊」って一体なに? 「植民地にするって……」 「ああ、そうだ。俺たち将軍は美少女楽団のスカウト部隊だが、なにも楽団だけじゃない、総統を崇める民衆というのも必要だからな」 フッと遠くを見るような目をする跡部を見て、不二はこの人ちょっとあぶない人なのかも、と思わないではなかった。 「ともあれ、おまえにはこの惑星で最初の楽団員になるという栄誉を与えてやろう」 どうだ、うれしいか? とでも言いたげにフジコレイヤーの色素の薄い髪の毛の中に手を差し入れてくる。 「冗談じゃない!」 思い切り力を込めて平手打ちをお見舞いしたが、なにぶんエネルギー切れで、変身が解けてしまうのも時間の問題、となればたいした効果もなかった。 軽くフジコレイヤーの手を拘束して、その目を覗き込む。 「楽団員になりたくないのか?」 訝しげに眉をひそめる跡部に、フジコレイヤーはかるくため息をつく。 どうも、本気で悪い人ってわけじゃなさそうだけど、この思いこみの激しさは一体……それに、手塚、手塚と乾はどうしてるんだろう? 無事だといいけど。 「これで、この先どんな罠や仕掛けがあるか判らなくなったな」 「ああ」 不二が消えてしまって、乾ロボットと取り残された俺は、不二を心配しながらもそれでもフジコレイヤーは一人でも戦える、と言った乾の言葉を信じて先を急いでいた。 延々と続くかに思える不気味な通路。いくらバイオボディで戦闘能力があるとはいえ、やはり不二は女の子なわけで、ひとりで敵の手に落ちていることを考えれば心配でないわけがない。早く彼女と合流しなければ。 シュッ 突然、なにかが顔を掠めて…… ドゴーン 背後で爆発音。 「な……」 後ろを振り向く前に乾の左手前の空間で影が実像を結ぶ。乾もオレも小さい方ではないと思うが、その巨体に比べれば大人と子供のようにしか見えないのではないだろうか。 「将軍の、邪魔、よくない」 太い腕が乾に向かって突き出された。 「あぶな……」 「そこまでや」 乾と巨体の間に長いマントを翻して眼鏡を掛けた長身の優男が現れた。 「殺してええ言われたんちゃうやろ?」 言われた巨体は不服そうにしていたが、やがて腕を降ろした。それを見届けると男は現れたときと同じく瞬間移動でもしたかのように数メートル後ろに下がる。 「でも抵抗できへんくらいには痛めつけといてええで」 男の声と同時に飛んできた攻撃を、咄嗟に身をかがめてよけながら視線の端で乾が上半身を捻りながら間合いを取って避けたのを確認した。 「手塚、下がっていろ」 乾が膝を折る。カシャンという機械音とともに膝からロケットミサイルのようなものが発射される。 「ばぅー」 片手でミサイルを握りつぶす。爆発の衝撃に空間がビリビリと鳴るが、受け止めた本人はなんともないらしい。 「化け物だな」 感嘆の声が漏れる。乾はすでに次の攻撃態勢に入っている。 どのくらい続いただろうか、うしろで高みの見物を決め込んでいる男が軽く口笛を鳴らした。 「薬物反応、しまった!」 乾の叫び声がどこか遠くの方で聞こえた。ガクン、と自分が床にくずおれたところで記憶が途切れた。闇の中に意識が飲まれていく。 「……か、手塚」 「う……」 痛む頭を軽く振って重いまぶたをなんとか薄く開ける。 「大丈夫か? 手塚」 乾の声が右の方から響いてくる。なにか柱のような物にくくりつけられているようで、両手は後ろ手に拘束されている上にほとんど体の自由がきかない。 「どうやら掴まってしまったようだな」 「フジコレイヤーが無事ならいいんだが」 広い部屋に、乾と二人で拘束されているのだが、見渡せる範囲に人影はない。どのくらい時間がたっているのか。しかし、敵を捕まえておいて縛り付けてあるとはいえ放置しておくというのはどうなんだ、この場合。 「乾、おまえロボットのくせになんで捕まってるんだ?」 「体を動かす大半がバイオロボットなんでね」 「……」 バイオ? 生体なのにロケットミサイルなんて発射するのか? 疑問は渦巻くが乾の「もっと説明を聞くかい?」とイキイキした表情を見たらげんなりしてしまった。 「お、もう気がついてるのか?」 突然目の前に男が現れた。部屋の真ん中に忽然と湧いて出たわけだ。 「たった三人で我がサカキタロストに刃向かうなんて、いい度胸じゃねぇか」 クックックと笑いながら俺と乾を品定めするように見ている。 「三人だけじゃないさ、地球はどこの植民星にもならないからね」 乾が静かな声で応えるのを、男はさもおかしそうに笑う。 「どうするつもりだ? 総統に忠誠を誓い、総統を称えるための美少女楽団にスカウトされる名誉を与えてやろうと言っているのに」 「美少女楽団?」 なんだそれは? 首を巡らせて乾の方を見るが乾も首を振って知らないと言っている。 「おい、忍足、おまえ、なんの説明もしなかったのか?」 げんなりした様子で、俺のさらに後ろに視線を流す。 「したで。235番目ぇの植民星にするって岳人が言うとったわ」 「それだけか?」 「せや? あかんかったか?」 ケロッとした顔で言う忍足とか言う眼鏡の男に、ハーと大きくため息をつく。 「俺たちの仕事は、美少女楽団のスカウト部隊だろうが! それを言っておかないからこんな面倒なことになってるんだろう」 「そりゃすまんかったな、跡部」 なんだか内輪もめをおこしているみたいだが、どうも話が見えてこない。 「おい、説明しろ」 「ん?」 ようやく俺たちが話が飲み込めていないことに気がついてくれたようで、跡部と呼ばれた男が俺の前に歩み寄ってきた。 「サカキタロストの総統、榊太郎(43)を称えるための楽団員のスカウト部隊が俺たちだ。全世界の美少女をスカウトするために、植民星を増やしている。この星で最初の楽団員になる栄誉はおまえたちの仲間の、フジコレイヤーに与えてやろうと思っている」 パチン、と跡部が指を鳴らすと同時に、天井から壁にくさりで拘束されてぐったりとした不二が降りてきた。 「不二!? 不二に何をした!!」 拘束された手足が軋んだが、そんなことはかまわない。不二が奴らの手に! しかもいつの間にか変身も解けてしまっている。 「ちょっと眠っていただいているだけだ。暴れられるとやっかいなんでね」 ギリ、食いしばった歯に血の味が混じる。 「エネルギーももうほとんど残っていないようだし、お前らから彼女を説得してくれ」 「説得とは……?」 乾が口を挟む。 「なかなか強情でな。楽団員になることを納得しない。お前らのほうから勧めてくれ」 「なにをバカなことを」 吐き捨てるように言った。なぜオレたちが不二に敵の味方をしろと説得しなければならないのか。だいいち美少女だかなんだか知らないが、楽団と言ったらあれだろう? 歌を歌う……そんなもののためになぜ地球を丸ごと植民地にしなければならないというのか。 「ダメだと言うなら仕方がない。戦闘能力のあるのはこの女だけらしいからな」 跡部の手が不二ののど元にかかる。 「やめろっっ!」 ビリビリと空気が震える程の声で叫ぶ。 「不二! 不二は覚えていないかも知れないが、幼い頃からずっとお前のことが好きだった」 十字に張り付けられて気を失っている不二に、静かに話しかける。 「だから、お前がもう一度この街に戻ってきて、最初に逢ったとき。俺のことを忘れてしまっている様子にショックを受けた」 オレは一目見て不二だと判ったのに、その日一日不二に無視され続けたことを思い出す。あの時のなんと表現していいか解らないなつかしさと苛立ち。 「乾に強制されたからとは言え、不二とともにある甘やかな日々。不二、目を覚ましてくれ」 ポツ いつの間にか涙が頬を伝っていた。地球が助かろうと、滅びようと、不二とともに迎えるのでなければ未来になど意味はない。 「……」 ポッ 小さな光が不二の胸に点る。 「……づ、か」 ウィィィィィーン 「なんだ? この音は?」 跡部が不二を振り返る。 「ドキドキダイナモが高速回転を始めた。エネルギー上昇中」 乾の声がダイナモの回転音にかぶさる。 ポッと点った小さな光は次第に大きくなって不二を包み込んでいく。 「フジコレイヤー、見参」 手をピッと額に当てたいつものポーズ。 「青い地球を守るため、胸の鼓動が天を衝く。正義の戦士フジコレイヤー悪の現場にただいま参上」 「不二」 「手塚、お待たせ」 照れくさそうに笑うと、キッと跡部をにらみつける。 「跡部! 身勝手な理屈は通用しない。地球はあなたたちに屈しません!」 「ほぉ? あくまで逆らう気か?」 おもしろい、と口の中で呟く。 「樺地、行け」 ユラリと巨体が揺れた。 「フジコレイヤー、行きます!」 細い身体が樺地に向かって突っ込んでいく。パワーは負けるが素早さでは不二の敵ではない。フジコレイヤーの技が炸裂する。 「も、もう、できません」 「おいおい、早すぎるんちゃうか?」 「次はあなたですか?」 「あー、あんまやりとぅないんやけどな」 「行きます!」 素早く切り込んで手刀とキック……が入らない。スルリとかわされていく。最小限の動きでフジコレイヤーの攻撃はすべて受け流されてしまう。 「クッ」 反対にフジコレイヤーはいつの間に攻撃されたのか確実に傷が増えていく。 「おい忍足、あんま傷つけんなよ」 「無茶言いよんで」 忍足が一瞬跡部に気を取られた隙に、不二のリボンが宙を切り裂く。 「オーロラエクスキューーーーショーーーーーーーンっ」 「うっわ!」 大げさなくらいに派手に倒れていく忍足。 軽く足下をふらつかせて、フジコレイヤーが膝をつく。 「不二っっっ!」 不二はけなげに立ち上がると、まっすぐに跡部に向かって歩を進める。 「さぁ、これであなた一人です」 フジコレイヤーが跡部に詰め寄る。 「ふっ」 はぁっはっはっは! 突然大声で笑い出した跡部に、フジコレイヤーはもちろんオレも乾までもが引いてしまう。 「気に入ったぜ、フジコレイヤー!」 眼前につきつけられたレーザービームを跡部は軽く手のひらで払いのける。 「よしっ、お前を楽団にスカウトするのはすっぱり諦める」 「植民地化の方を諦めたらどうだ?」 乾がフジコレイヤーの後ろから声を掛ける。 「それは、お前次第だな、フジコレイヤー」 「……どういうこと?」 跡部はふっと嗤うと、不二と俺とを見比べる。 「空っぽだったエネルギーは充填されているわけだ」 ニヤニヤと嗤いながら、不二に一歩近づく。 「俺様はお前の味方をしてやることにしたぜ!」 「どういう意味だ!?」 不二の味方をする、というのと、不二次第で地球から手を引く、というのは矛盾している気がするのだが。 「前途多難だな」 訳のわからないことを言いながらも跡部は俺がつながれている柱に回り込むと拘束を解いてくれる。 「まぁ、充分楽しませてくれ」 「誰が!」 不二の平手が跡部の頬を打つ。 「ふっ、鼻っ柱の強い女だぜ。せいぜい尻に敷かれないようにしろよ」 後の方を俺に向かって囁くと、じゃあな、とフラッと出口の方に行ってしまう。 「そうそう。そんなわけでこの秘密基地は廃棄するからな。10分以内に機器類が自爆するようセットする。それまでに外に出ておけよ」 「なっ」 今後こそ背中越しにヒラヒラと手を振って跡部は出ていってしまう。 「急がなくちゃ、手塚!」 「ああ……それにしても……」 不二の味方をするというのは一体どういう意味なのか。跡部は何を考えているのか。実のところサカキタロスト、榊太郎(43)総統とは何なのか。すべての謎が謎のまま、戦いは一応は勝利を収めた……ことになるのだろうか。 不二とオレはその後ゼロから恋人同士のつきあいを始めた。戦うためのバイオボディーでいる必要がなくなり生身の身体に戻った不二と学校の登下校を一緒にしたり、手をつないで歩いたり、デートや、キスもした。 そして、今日。 「ん……手、塚……」 白いシーツの上に不二の躰がくねる。 口づけて、舌を吸うと甘い喘ぎが漏れる。柔らかい乳房と桜色の突起。なだらかに曲線を彩る翳りにひっそりと隠れるように泉が潤っている。 「不二」 「手塚、来て……」 「本当に、いいのか? まだ、早いんじゃないのか?」 コクン、と頷く。 「大丈夫。手塚だから、欲しい」 潤んだ瞳でしっかりと見つめられて、オレはゆっくりと不二の膝を開いていく。ぬかるんだ入り口に自身を押し当てるとそれだけで妙にドキドキした。 「イッ……」 「痛いか?」 先っぽが潜り込んだところで不二の悲鳴に動きを止める。 「痛い……けど……大丈夫、ちゃんと、して?」 まなじりに涙を浮かべながらも不二にそう言われて、ゆっくりだと痛みを長引かせることになるかと一気にオレは腰を進める。根元まで飲み込まれたところで不二の色素の薄い髪の毛に手を差し入れる。 「大丈夫か?」 「ん」 ゆっくりと髪の毛を梳いていく。サラサラと流れる髪が光を反射する。 「ありがとう……手塚、もう大丈夫、少し動いてみて?」 「辛かったら、言うんだぞ」 不二の躰に負担を掛けないように、ゆっくりと円を描くように動かしてみる。 「は、ぁ」 不二がうっとりと目を閉じる。 「動くぞ」 絡みつくような襞を押し分けて抽挿を開始する。サラリとした感触はもしかしたら出血だろうか? 「ん……」 「不二っ」 一気に加速度を増した悦楽に飲み込まれそうになる。 「不二、行くぞ」 「あ、手塚……来て、ボク、もっ」 ドクンと不二の中ではじけた。 「あ、あぁっっ」 「……」 「……」 すでに二人とも服を身につけ終わっていて。 「しちゃった、ね?」 「ああ、してしまったな」 互いになんとなく気恥ずかしくて顔をあわせづらい。 「バイオボディーの時にあんなに何回もやってるのに、なんだか今日は緊張しちゃった。ヘンだね」 不二がふふ、と笑う。 「おかしくはないぞ。オレも緊張した。不二の生身の身体を抱くのはやはりはじめてだから」 そっか、と不二が微笑む。 「そうだ。それに不二の本当の身体は処女なんだし、緊張するだろう」 「手塚、ありがとう」 不二の顔が近づいてくる。 「おおーっと、そこまでだお二人さん」 いきなり割って入った人影に、不二とオレはあわてて離れる。 「どこから入ってきたんだ」 眉間に深くしわが寄ってしまうのはいたしかたないだろう。 「それより、不二、早く研究室に来い。地球の危機だ」 「はぁ?」 なんの冗談? と突然の跡部の乱入に不二は容赦がない。 「地底帝国、リッカイィンが侵略戦争を仕掛けてきているんだ」 窓から現れた乾が跡部の言葉に続く。 「あ、あの……」 「早くしろ、時間がない」 「えっと……」 「今度のバイオボディーのドキドキダイナモは改良を加えてある。Hは必須ではなくなった」 乾の言葉に、心臓が大きく脈打つ。つまりは強制されたセックスをする必要はなくなるわけだ。 「ああ、愛の力って奴で動くようにしたのさ」 跡部が大げさに腕を広げてみせる。 「つまり、どうあっても手塚の協力は必要なわけだな」 「……どうでもいいが。なぜお前がここにいる」 低い声を跡部は聞き取るとゲラゲラと笑いだした。 「言っただろう、フジコちゃんの味方になるってな」 「……」 「というわけだ、手塚。早く準備して来てくれ。研究室で待ってる」 バタバタと乾と跡部が部屋から消える。 「……」 「なんだか……」 大仰にため息が漏れてしまう。 「手塚」 不二が背伸びをして俺の顔を覗き込んでくる。 「どうした?」 「ん、先刻の続き……チューしよ? この身体では当分、できなくなりそうでしょ?」 「不二……」 不二の小さな身体を抱きしめる。ピンクの柔らかいくちびるにキスを降らせる。 背中に回された不二の小さな手にキュッと力がこもる。 「行こっ? 手塚」 にっこりと微笑んだ不二の顔は、幼い頃からいつも一緒の笑顔で。 オレはこの笑顔をずっと守って行きたい。 「不二、愛してる」 「ふふ、手塚、ボクもだよ」 がんばれ手塚、がんばれフジコレイヤー。 愛と勇気で今日も地球の平和を守るのだ。 |
フジコレイヤーファイナルでした。 1と2がわりと元ネタを無視してる割にはファイナルだけちゃんと元ネタ通りのラストになってます(笑) あんまり意味はないんだけど。 チャージシーンがもっと書きたかったけど、そればっかりじゃね(笑) |